ぐるぐる将棋生活

将棋教室や道場に通ったり、プロの先生の将棋を観戦したりイベントに行ったり。いち将棋好きの将棋生活の備忘録です。

中田宏樹先生のこと

今日のお昼、中田宏樹八段が亡くなったことを知った。あまりにも突然のことで言葉を失ってしまった。まだお若いのに。ショックを受けている。

 

去年の秋ごろから不戦敗が続いていて、今月の頭には2ヶ月間休場とのお知らせが出ていた。随分お加減が悪いのだろうかと心配はしていた。けれども2ヶ月しっかりお休みされるのであれば、また元気に対局に復帰されるのではないかと勝手に思ってしまっていた。休場のお知らせからたった1週間での訃報だった。

 

中田先生には新宿将棋センターで将棋を教わっていたことがある。

 

2021年の3月に閉店した新宿将棋センターでは、女性向けのレディースセミナーという教室が月に2回開催されていた。私はそこに通っていて、最後の3年弱、中田先生の指導対局を受けていた。優しくて柔らかな笑顔で笑う先生だった。

 

中田先生が初めていらっしゃったときのことを今でもよく憶えている。

当時、将棋を指す女性が増えていて、新宿の教室が講師一名では大変になってきたときだった。「次回から講師の先生が増えて2名体制になります」とのお知らせがあり、どなたがいらっしゃるのだろうと思って教室に入ると、中田先生がいらっしゃった。

 

本物の中田宏樹先生だ!見る将でもある私だったが、将棋まつりや大盤解説会などで先生の姿をお見かけしたことはない。あまりそういった場所に出てこられないイメージがあったのと、事前のお知らせもなく中田先生のようなタイトル挑戦などの実績もある高段者の先生がいらっしゃったことにとにかく驚いた記憶がある。

 

先生の指し手は厳しかった。というよりは私のような棋力の人を指導される機会があまりなかったのかもしれない。恐らく先生は普通に将棋を指されていたのであろう。特に最初のうちは大駒を抑え込まれてよく負けていた。

それでも指導対局の後は不思議と前向きな気持ちになった。一局の中でどこがポイントになったのか、整然と教えてくださった。次に指すときはもっと頑張ろうといつも思っていた。そんなわけで勝たせていただいたときは喜びもひとしおで、そういうときに将棋仲間と感想戦という名のお茶会で飲んだお茶はとても美味しかった。

 

新宿将棋センターの閉店にともなって、レディースセミナーも終了となった。またどこかでご指導いただける機会があると嬉しいです、などとお伝えしたが、それは叶うことはなかった。

2021年3月20日の将棋が、中田先生と指した最後の将棋になった。私が寄せをもたもたしていたらあっという間に即詰みに打ち取られた将棋だった。リベンジが叶わないのはとても残念だ。

 

指導対局を受けるときは棋譜をノートにつけながら指していた。中田先生との将棋の棋譜を見返してみる。全部で15局教わっていた。

 

2年から5年前のことだが、棋譜と横に書いたメモを見ると当時のことがありありと思い出された。このとき先生が何を考えて、私は何を考えていたかということを復元できる棋譜というものの素晴らしさを改めて知ることになった。

 

棋士には棋譜が残る。今度、先生が公式戦で指された棋譜を並べてみたいと思う。

 

それでも今は、中田先生の新しい将棋がもう見られないということと、中田先生に将棋をもう教わることがないということがただただ悲しい。

 

謹んでお悔やみ申し上げます。